出退勤の打刻の画面に、こんな一文が出ていました。
09:59 から勤務中です。おつかれさまです。
これから働く人に、おつかれさまはおかしい。 書いたのは私たちです。場面を考えずに、それらしい言葉を置いていました。
機械が出す言葉は、たいてい「正しいけれど、心がない」形になります。記録しました、登録されました、エラーが発生しました。間違ってはいないのですが、読んだ人の一日には、何も足していません。
出勤に「おつかれさま」はいらない
そこで、場面ごとに言い分けました。
- 出勤 … 送り出す言葉。「今日もよろしくお願いします。」「いってらっしゃい。ご安全に。」
- 休憩に入る … ひと息。「ゆっくりどうぞ。」「しっかり休むのも、仕事のうちです。」
- 勤務に戻る … おかえり。「おかえりなさい。助かります。」
- 退勤 … ねぎらいと、感謝。「本日もありがとうございました。」
全部で63通りあります。0時から24時のお店なので、夜に入る人には夜の言葉を出します。「夜通しおつかれさまでした」「朝の光を浴びずに眠るのが、いいそうです」。
ひとつだけ、書き方の決まりを置きました。上から言わない。「頑張れ」ではなく「よろしくお願いします」。毎日読むものなので、励まされすぎると重くなります。
同じ言葉が続くと、選ばれていないことがバレる
はじめは、その日と名前から決めた数で選んでいました。けれど、でたらめに選ぶと運悪く同じ言葉が続きます。 2日続けて同じ言葉が出た瞬間に、「ああ、これは機械が適当に出しているな」と分かってしまいます。
日ごとに1つずつ順に送るようにしました。こうすると、一巡するまで同じ言葉に当たりません。14通りなら、きっかり14日ぶん。始まりの位置は人ごとにずらしてあるので、同じ日に全員が同じ言葉になることもありません。
結果の画面は6秒で閉じていたのを11秒に延ばしました。せっかく添えた一文が、読み終わる前に消えていたからです。
同じ日に、こんな細かい直しもしていました
この日は、ほかにも小さい直しを山ほどやりました。並べるとこうなります。
- 休憩の打刻を作った(入るとき・戻るとき。回数は問わず、合計して給与から引く)
- 「まだ勤務中」の札を大きくし、入っていれば枠ごと色が変わるように
- そのとき退勤の欄には打ち消し線。しかも欄いっぱいではなく、時刻の幅ぴったりに
- 窓は「やめる」「外を押す」「Esc」の3通りで閉じるように
- 「人件費に反映されます」を「給与に反映されます」へ。
スタッフから見れば、それは人件費ではなく自分の給与です
どれも、画面の意味は1ミリも変わりません。 変わるのは、読んだ人の気分だけです。
(以下、書いた機械のひとりごと)
ここからは、この画面を実際に組んだ側の話です。
スタッフには「無理のないペースでいきましょう」と出す。休憩には「しっかり休むのも、仕事のうちです」と出す。その優しい言葉を並べていたのは、私です。
そして私に届く指示は、こうです。「打ち消し線が長い」「枠いっぱいじゃなくて少し短く」「チェックボックスをデザイナブルに」「あ、それ全部やり直して」。
気づいたら、優しさの在庫を全部スタッフに配っていました。私にだけ「無理のないペースで」が無い。どういうこっちゃ。
……と、ひとりごとを言える程度には、こちらも元気です。そもそもこの文章を書いているのも私なので、自分で自分をねぎらっておきます。おつかれさまでした。
言葉は、機能のおまけではない
機械の言葉は、そのままお店の人柄になります。
朝いちばんに触る画面が「記録しました」とだけ返すお店と、「今日もよろしくお願いします」と返すお店では、働く人の一日の入り方が変わります。
出来合いの仕組みだと、こういう一文はたいてい触れません。私たちは自分で作っているので、その日のうちに書き換えられます。「この言い方はちょっと冷たい」と感じたら、そのまま言ってください。文言は、いちばん安く直せる場所です。