お店の受付で、こんな場面があります。
お電話で「20時から空いていますか」と聞かれて、「空いていますよ」とお答えする。お客様は「んー、ちょっと連れに確認します」とおっしゃる。その数分のあいだに、ネットから同じ時間が売れてしまう。
逆もあります。ネットで予約しようとしている方が名前を入力している最中に、店頭のお客様に同じ枠をお売りしてしまう。どちらのお客様も、何も悪いことをしていません。
これをどう防ぐか考えていて、ふと気になりました。飛行機やホテルは、あの規模でどうやっているんだろう? 旅行サイトも、航空会社の窓口も、同じ席を売っているはずなのに。
調べてみたら、航空とホテルでまるで考え方が違って、想像よりずっと面白かったので、今日はそのお話です。
飛行機の席が二重に売れない理由は、とても単純だった
結論から言うと、台帳(在庫の帳簿)が、はじめから1つしかないからです。
旅行サイトは、座席の在庫を自分のところに持っていません。「あと3席」と表示されていても、それは旅行サイトの数字ではなく、航空会社の台帳を覗いて見せているだけです。予約を確定するときも、書き込む先は航空会社の台帳そのもの。だから、二か所で同じ席が売れようがないのです。
もうひとつ、なるほどと思ったのがカウンターの動きでした。窓口の係員さんは、お客様と話しながらその場で予約を立てていきます。あれは接客の記録を取っているのではなく、立てた時点でもう席が押さえられているのだそうです。「押さえるボタン」を別に押しているわけではありません。
そして押さえたまま支払いをしないと、期限が来た時点で自動的に席が戻る。よく聞く「発券期限」がこれです。人が解放し忘れても、時間が面倒を見てくれる作りになっています。
ちなみに航空会社は、わざと座席数より多く売っています。当日来られない方が一定数いるのを見込んだ商売で、あふれてしまったら補償金をお渡しして次の便へ——というあれです。
つまり航空業界は、二重予約を技術で防ぎきっているのではなく、「ここまでは防ぐ、あふれたらお金で解決する」と決めているのですね。ここが個人的にいちばん意外でした。
ホテルが、たまに二重予約になってしまう理由
ホテルはまったく事情が違います。在庫はホテルの中にあり、予約サイトは別の会社だからです。
昔は「配りもの方式」でした。「A社に5室、B社に3室」とあらかじめ割り当ててしまう。これなら重なりませんが、A社の5室が売れ残っているのにB社では満室、ということが起きます。売り逃しが出るわけです。
いまは「まとめて持って、変化のたびに全サイトへ知らせる方式」が主流です。1室売れたら、その情報を各サイトへ配って回る。理にかなっているのですが、知らせが届くまでに数秒から数分かかります。
その短い遅れのあいだに、最後の1室が二か所で売れてしまう。これが、たまに起きるホテルのダブルブッキングの正体です。
面白いのは、ホテル業界には重なってしまったときの手順がちゃんとあることです。自社負担で同等以上の別のホテルへお振り替えし、差額や交通費を持つ。業界では「ウォーク」と呼ばれています。
こちらも、技術で防ぎきるのではなく、後始末の段取りまで含めて設計されているのです。
3つのやり方に整理できました
| やり方 | 中身 | 払っている代償 |
|---|---|---|
| ひとつの台帳 | 全員が同じ帳簿に書く(航空) | つなぎ込みが大変 |
| 期限つきの取り置き | 席を数分だけ押さえ、時間が来たら自動で戻す | 押さえている間は売れない |
| 多めに売って、あとで払う | あふれたら補償・お振り替え | お金と信用で払う |
こうして並べてみると、どの業界も「完璧に防ぐ」ことは目指していません。どこで妥協するかを決めて、そのぶんの手順をあらかじめ用意しているだけなのです。
大きな会社ほど「防ぎきらない」と決めていて、小さなお店は「防ぎきれる」。 これが、調べていていちばん面白かったところでした。
個室サウナ3室に、振り替え先はありません
私たちがいま作っている予約システムは、個室サウナのものです。3室しかありません。
ホテルのように「あふれたので近所のサウナへお振り替えします」とは、さすがに言えません。言ってみたい気もしますが、お客様は特定のサウナに入りに来られているので、代わりになるものが無いのです。
その代わり、規模が小さいことには利点があります。台帳を1つにできるのです。ネット予約も、受付の画面も、お電話で受けた予約も、書き込む先はぜんぶ同じデータベース。しかも「空いているか確認してから登録する」のではなく、重なる予約はそもそも登録できないようにしてあります。航空会社と同じ形を、3室のお店でやっているわけですね。
そうすると、残る問題は人が迷っている時間だけになります。ここはもう、機械では消せません。だから航空と同じく「期限つきの取り置き」で解くことにしました。
今日そのために入れたのが、受付の画面で空き枠を押した瞬間に、その枠を押さえるという仕組みです。カウンターの係員さんの真似です。押さえるボタンは作りませんでした。電話でお客様と話しながら、余計なボタンを押すのは無理だからです。
- 空き枠を押した瞬間に、その1枠だけ押さえる(ネットからは取れなくなります)
- 入力している間は、1分ごとに自動で延びる
- 「閉じる」を押せば外れる。別の枠を押せば、押さえも移る
- 受付が画面を離れたら、5分で勝手に消える
最後のひとつが、いちばん大事でした。離席したことを検知しようとすると、電源が落ちた・回線が切れた、で必ず取りこぼします。だから誰かが生かし続けないと消える形にしました。押し忘れても、最大5分で空きます。
調べてよかったな、と思ったこと
世界中で毎日動いている巨大な仕組みでも、完璧ではないと知れたことでした。完璧に防ぐのではなく、どこで妥協して、そのときどうするかを決めてある。
私たちのような小さなシステムは、規模が小さいぶん妥協しなくて済む場面があります。今回でいえば「台帳を1つにする」がそれでした。大きな仕組みから借りてきたのは考え方だけで、そのまま真似したわけではありません。
お店の予約でお困りのことがあれば、こういう話も含めて、いつでもご相談ください。調べものが楽しくなってしまって 遅くまで読みふけった甲斐がありました。